しきりに頭を振る。耳をかいては、後ろ足をなめる。動物病院で処方された点耳薬でいったん落ち着いたかと思えば、数か月後にまた同じ症状を繰り返す——。
こうした再発を伴う外耳炎の場合、耳の中の細菌やカビに注目するだけでは根本的な解決に至りません。獣医学において、外耳炎の多くは単なる「耳の病気」ではなく、皮膚の疾患が耳に表れたものと捉えられています。その背景として特に多いのがアレルギーであり、食物アレルギーも例外ではありません。本記事では、外耳炎が繰り返される仕組みと食物アレルギーとの関連性、ならびに動物病院における一般的な診断の流れについて解説します。
- 細菌やマラセチア(カビの一種)は外耳炎の「二次的な原因」に過ぎず、その背後に根本的な原因が潜んでいる
- 根本原因として最も多いのはアレルギーであり、アレルギー性皮膚疾患を持つ犬の70〜80%に外耳炎が認められる
- 食物アレルギーを抱える犬において、耳は症状が現れやすい部位の代表格である
- 食物アレルギーの診断は、血液検査や唾液検査ではなく除去食試験によって行われ、精度を高めるためには8週間以上の継続が必要となる
- 除去食にはこれまで摂取したことのないタンパク源が用いられ、鹿肉もその有力な候補となる
繰り返す外耳炎が示すサイン
外耳炎とは、耳の入り口から鼓膜に至る「外耳」に生じる炎症を指し、犬が動物病院を受診する理由として最も頻度の高い疾患のひとつに数えられます [※1]。代表的な症状として、頭を振る、耳をかゆがる、耳に触れられるのを嫌がる、特有のにおいがする、耳垢や分泌物が増加する、あるいは赤みや腫れが生じるといった様子が観察されます [※1]。
投薬によって一時的に炎症や感染が鎮まったとしても、根本的な原因が取り除かれていなければ、外耳炎は再発を免れません。獣医学の専門書においても、再発防止には引き金となる要因への対処が不可欠であると明記されています [※1]。すなわち、繰り返される外耳炎は「耳以外の場所に原因が潜んでいるかもしれない」という重要なサインなのです。
外耳炎の「表面的な原因」と「根本原因」
細菌やマラセチアは二次的な原因
外耳炎を患った耳から検出されるブドウ球菌やシュードモナス(緑膿菌)といった細菌、およびマラセチアは、症状を悪化させる要因ではあるものの、多くの場合、最初のきっかけではありません。これらは、すでに環境が悪化した耳の内部で増殖する「二次的な原因」に分類されており、根本的な原因に対処しなければ、慢性化や再発を招きやすいと指摘されています [※1]。
また、外耳炎を引き起こしやすくする素因も存在します。垂れ耳や狭い耳道、耳毛の多さといった解剖学的な特徴のほか、水遊びなどに伴う湿気がその代表例と言えるでしょう [※1]。さらに、過度な耳掃除も二次的な原因のひとつとして挙げられています [※1]。
獣医皮膚科が提唱する4つの原因分類
現在の獣医皮膚科領域において、外耳炎の原因は以下の4つに分類して考察されます [※2]。もはや外耳炎は局所的な耳道の病気としてだけではなく、皮膚疾患が耳に現れたケースが多いという認識が主流となっています [※2]。
| 分類 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| 素因 | 外耳炎になりやすくする | 垂れ耳、狭い耳道、耳毛、湿気 |
| 一次的な原因 | 正常な耳に直接炎症を起こす | アレルギー(食物アレルギー、アトピー性皮膚炎)、異物、ダニ |
| 二次的な原因 | 状態が乱れた耳で炎症を悪化させる | 細菌、マラセチア |
| 持続させる要因 | 炎症の結果として起き、治りにくくする | 耳道の狭まり、分泌腺の増殖、中耳炎 |
再発を繰り返す外耳炎の診断においては、これら4つの要素をひとつずつ丁寧に検証していくことが基本手順となります [※2]。
外耳炎を繰り返す最大の背景——アレルギー
アレルギー性皮膚疾患を抱える犬の70〜80%に外耳炎が併発
獣医学の総説によれば、食物や環境に起因するアレルギー性皮膚疾患を持つ犬の70〜80%に外耳炎が認められており、外耳炎の一次的要因として最も割合が高いのがアレルギーであると報告されています [※3]。アレルギー性の炎症によって耳の内部環境が変化し、二次感染を引き起こしやすい状態を生み出してしまうのです [※3]。
また、外耳炎にかかりやすい犬種の傾向は、皮膚疾患の好発犬種と一致しています。レトリーバー種やテリア種においてアレルギー症例が多いのは、まさにその典型例と言えるでしょう [※1]。
食物アレルギーの犬にとって、耳は症状が現れやすい部位
食物アレルギーを持つ犬の臨床症状をまとめた獣医学論文では、かゆみが全身に及ぶケースが多い一方で、耳や足先、腹部などにも局所的な症状が現れやすいことが示されています [※4]。ある研究データでは、半数以上の犬において耳のかゆみが観察されました [※4]。皮膚症状としてとくに目立つのは、反復性の細菌性皮膚炎、外耳炎、そしてアトピー性皮膚炎です [※4]。
全身をそれほどかゆがっていなくても、耳の不調が慢性的に続くようであれば、食物アレルギーの可能性を念頭に置いておくのが賢明です。
食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の見分け方
一口にアレルギーと言っても、特定の食物に反応する食物アレルギーと、花粉やハウスダストといった環境中のアレルゲンに反応するアトピー性皮膚炎が存在します。外見上の症状だけでこの二つを鑑別するのは困難であるため、食物アレルギーの有無は主に除去食試験によって確認されます [※5]。両疾患の具体的な違いについては、「犬のアトピーと食物アレルギーの違い・見分け方」の記事で詳しく解説しています。
犬の食物アレルギーと原因になりやすいタンパク源
主な原因は、日常的に摂取してきた食材
獣医学の論文によれば、犬の食物アレルギーの原因として報告頻度が高いのは、牛肉(34%)、乳製品(17%)、鶏肉(15%)、小麦(13%)といった食材です [※6]。上位を占めるのは、いずれも一般的なドッグフードで広く使用され、日常的に口にする機会の多いものばかりと言えます。アレルゲンとなりやすい食材の詳細については、「犬の食物アレルギー原因タンパク質ランキング」をご覧ください。
ノベルプロテインとしての鹿肉の役割
食物アレルギーの診断を目的とした除去食には、愛犬がこれまで口にしたことのない未知のタンパク源(ノベルプロテイン)、あるいはアレルゲン性を低下させた加水分解タンパク質が用いられます [※7]。どの食材がノベルプロテインに該当するかは過去の食歴によって異なりますが、牛肉や鶏肉を主体とした食事を続けてきた犬にとっては、鹿肉が有力な候補になり得ます。
動物病院での検査と診断の流れ
耳の検査プロセス
動物病院における診察では、丁寧な問診をはじめ、耳鏡を用いた内部の観察、および耳垢を顕微鏡で確認する細胞診が基本ステップとなります。症状が重度であったり再発を繰り返したりするケースでは、さらに細菌培養や薬剤感受性検査、中耳の状態確認といった精密な検査が追加されます [※2]。このように、直接的な耳の治療と並行しつつ、疾患の素因や根本原因を探索していくのが一般的なアプローチです [※2]。
食物アレルギー診断の要となる除去食試験
食物アレルギーの有無を判定する上で最も確実な方法は、除去食試験とそれに続く負荷試験の実施です [※5]。除去食への切り替えによって症状が改善し、元の食事に戻した途端に再び悪化が認められれば、確定診断へと至ります。
過去の研究報告では、除去食の開始から5週間で80%以上の犬に症状の改善が見られ、8週間継続した場合には90%以上の犬猫で症状が消失したというデータがあります。こうした背景から、除去食試験は最低でも8週間続けることが推奨されています [※7]。なお、実施期間中は、おやつや食事のトッピングなどにも疑わしい食材が混入しないよう徹底した管理が求められます。
血液検査や唾液検査の限界
食物に対する特異的抗体を測定する血液検査は、結果の再現性に乏しく、とくに犬においては精度のばらつきが大きいことが指摘されています [※5]。また、唾液を用いた検査に関する研究でも、食物アレルギーを持つ犬と健康な犬との間で陽性率に有意差は認められず、診断ツールとしての信頼性は低いと結論づけられました [※8]。したがって、簡易的な検査結果のみに頼ってフードを選ぶのではなく、かかりつけの獣医師と綿密に相談しながら除去食試験を進めることが大切です。
除去食試験を終えたあとの食事管理
除去食試験を通じて症状が改善し、原因となる食材が特定された後は、該当する成分を避けた食事療法を継続していく形となります。毎日の主食として与えるのであれば、それ単体で十分な栄養バランスが保てる「総合栄養食」から適したものを選ぶと安心でしょう。
また、試験期間中はもちろん、その後に与えるおやつ類についても、アレルゲンが含まれていないか念入りな確認が必要です。具体的な選び方のポイントについては、「食物アレルギー診断後の維持食」および「食物アレルギーの犬にジャーキーを選ぶ3つの基準」の記事にて整理しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 犬の外耳炎はなぜ何度も繰り返すのですか?
耳の中で増殖する細菌やマラセチアはあくまで「二次的な原因」であり、その背後に根本的な原因が残存しているケースが多いからです。最も代表的な根本原因はアレルギーとされ、アレルギー性皮膚疾患を抱える犬の70〜80%に外耳炎が併発することが報告されています [※3]。
Q2. 耳だけが赤い・臭い場合でも、食物アレルギーの可能性はありますか?
原因候補のひとつとして十分に考えられます。食物アレルギーの犬にとって耳は症状が現れやすい部位であり、研究結果によっては半数以上の個体に耳のかゆみが認められました [※4]。症状が慢性化している場合は、早めに獣医師へ相談のうえ原因を特定することをおすすめします。
Q3. 食物アレルギーは血液検査で診断できますか?
血液検査は結果の再現性に乏しく、犬の診断においては正確性のばらつきが大きいと指摘されています [※5]。唾液検査に関しても、診断ツールとしての信頼性は低いのが現状です [※8]。アレルギー診断の基本となるのは除去食試験とそれに続く負荷試験であり、90%以上の症例を確実に見極めるためには8週間以上の継続が推奨されています [※7]。
Q4. 外耳炎を繰り返す犬に、鹿肉のドッグフードは向いていますか?
食物アレルギーが背景にある場合、過去に摂取経験のないタンパク源を用いた除去食が有効な選択肢となり、鹿肉もその優れた候補のひとつに挙げられます [※7]。ただし、どのドッグフードを用いて試験を進めるべきかは、愛犬の食歴を考慮する必要があるため、まずは獣医師に相談して判断を仰いでください。
参考文献
- Otitis Externa in Animals(Merck Veterinary Manual)
- Diagnosis and medical treatment of otitis externa in the dog and cat(Jacobson LS・Journal of the South African Veterinary Association・2002)
- Pseudomonas spp. in Canine Otitis Externa(Secker B, Shaw S, Atterbury RJ・Microorganisms・2023)
- Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (7): signalment and cutaneous manifestations of dogs and cats with adverse food reactions(Olivry T, Mueller RS・BMC Veterinary Research・2019)
- Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (4): can we diagnose adverse food reactions in dogs and cats with in vivo or in vitro tests?(Mueller RS, Olivry T・BMC Veterinary Research・2017)
- Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (2): common food allergen sources in dogs and cats(Mueller RS, Olivry T, Prélaud P・BMC Veterinary Research・2016)
- Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (1): duration of elimination diets(Olivry T, Mueller RS, Prélaud P・BMC Veterinary Research・2015)
- Testing for food-specific antibodies in saliva and blood of food allergic and healthy dogs(Udraite Vovk L ほか・The Veterinary Journal・2019)
メゾン・ド・ジビエの鹿肉フードについて
メゾン・ド・ジビエが提供するドライフードは、国産の新鮮な生鹿肉を主原料とした全成長段階(オールステージ)対応の総合栄養食となっています。使用している原材料の詳細は、すべて商品ページにてご確認いただけます。愛犬の外耳炎や皮膚のトラブルが長引く場合は、まずかかりつけの獣医師にご相談のうえ、除去食試験後の日常的な食事の選択肢としてぜひご検討ください。











